踊りませんか。

きれいなもの至上主義

ヅカヲタと仕事の話

 ヅカヲタとして生きていると公演単位でしかものを考えなくなるのであまり実感がわいていないが、世間はまもなく春だ。タカラヅカでは研1さんたちが入団し、わたしの贔屓も学年を一つ重ねる。下界においても多くの企業にとっては年度の変わり目で、色んな人が会社を去り(人材流動の激しい業界に身を置いているので3月はとにかく「退職のご挨拶」というタイトルのメールが飛び交いがち)、また新たに仲間に加わる人もいる。

 わたしももういい年なのでここ数年は採用活動にちょこっと協力したりしているのだが、学生の前に出るときもオタクであることを全く隠していないので、そういったことについて尋かれることが多い。

「休みは取れますか?」

「趣味と仕事はどうやって両立しているんですか?」

「夜は何時くらいに帰っていますか?」

などなど…。確かに、社会人かつオタクとして生きようと思うと必ずぶつかるのが「仕事との両立」の壁。「会社に入る」という選択をする場合は就活のときにそのへんを見据えて業界や会社を選ぶかどうかでQOLが大きく変わる気がする。自分を振り返るとそのへんあまり考えずにフワ~っと就職してしまったのだけれども(運よくオタクが生きやすい会社に入れたので無事に生きています)、会社員研10になろうとしている今、どんな環境ならオタクが生きていきやすいかを改めて振り返ってみようと思う。

※いつものことながらわたしの個人的な感覚の話なので、あくまで話半分でよろしくお願いします。東京にあるそこそこのサイズ感の会社に新卒で入った人間が書いています。あともうだだ漏れだと思いますが、人生の柱として「仕事」で自己実現図っていきたいし結婚や子育てには全く興味がないタイプのオタクなので、そういう価値観に基づいた話です。

 

0. まず自分の優先順位を見定める

 まずは前提から入ろう。自分の優先順位=オタクとして生きるには何が必要かである。わたしは今ヅカヲタ、しかも同一公演に何度も通うタイプのヅカヲタなので、何よりも欲しいのは「自分のタイミングで休みが取れる環境」+「公演に通えるだけの金」だ。逆に言うと贔屓が舞台に立っていない期間は忙しくても構わない。

 これが例えば二次元のオタクで同人活動に命かけてます、とかになると少し話が違ってくる。休みが取れることはもちろん大事だが、どちらかというと「一日の中でどれだけ原稿を進める時間が取れるか≒一日の拘束時間は長すぎないか」+「イベントのある土日は休みか」の方が大事だろう。個々人の手の速さもあるが、28pとか32pとかの漫画は1日2日では描き終わらない(少なくともわたしは1ヶ月くらいかかる)。時たま取れる丸一日の休みより、恒常的に早く帰れることの方が重要である。

 わたしが働いているのは完全に前者向けの職場だ。入社5年目くらいの時にとある漫画にドハマりして1年で5~6冊計200pくらい同人誌を出したこともあったが、そのときは結構キツかった。原稿を進めたい、けど家に帰れるのは日付が変わってから。そして別に休みの日だからといって1日に20p描けるわけでもなし……。明らかに今の方がオタク生活は楽にできている。

 

1. 働き方

 さて、ここからが本題…といいつつ優先順位の話でほぼ語りつくしてしまった感じもあるのだが、まず重要なのは「その会社でわたしは何をするのか」である。多くの会社は採用してから研修を経て決めるという感じだと思うし自分でどうこうできる話でもないのかもしれないのだが(希望くらいは出せるとこが多いのかな…)、あえておすすめするとするなら裁量労働の利く個人商店的業務がヅカヲタのような現場の発生するオタクには優しいと思う。

 今話題の裁量労働だが、「帳尻は合わせるから今日は初日に行く!」というのができるのはむちゃくちゃありがたい。スーパーフレックスなら「日曜にムラでお茶会だからその日は宿泊して翌日昼の便で戻ってきて出社する」とかも可能である。ブラボー裁量労働。めっちゃ助かってる。

 ただ実感として、裁量労働はチーム業務には死ぬほど向いていない。皆がオフィスではないどこかに散っていると連絡が滞るからだ。「話せばすぐなのに電話とかメールだとイマイチ伝わんないな~」ということが世の中には多数あるし、基本的には一人で仕事をしているわたしでさえそういう細かい相談事項が発生することはある。だが、今のところチームウェアなどを駆使してもそこの溝を埋めるには至っていないと感じることが多いのだ。こういう小さい連絡の行き違いがいくつも重なるとトラブルの引き鉄になったりすることもあるので、裁量労働は今のところ個人商店的業務とセットで考えたほうがいいと思う。トラブルが起きて予定していた公演に行けないなどの悲劇を生まないためにも。

 ちなみに「個人商店的」とは、「自分一人でする仕事が多く、かつその仕事が場所を選ばないもの」という意味で使っている。具体的に職種を挙げられるほど世の中の仕事について詳しいわけではないのだが、ライターとか企画職とかはイメージに近いんじゃなかろうか。もちろん人それぞれあるとは思うけど。

 

2. 労働時間と報酬

 死ぬほど働いて死ぬほど稼ぎたいか、そこそこの時間でそこそこ稼ぎたいかという話である。特にこれといって資格も技能も無い場合はだいたいにおいて労働時間と報酬が正比例するので、この二つは切っても切り離せない。死ぬほど働いて死ぬほど稼ぐのもそこそこの時間でそこそこ稼ぐのも、それぞれにいいところ・悪いところがあるので、自分に合うのはどちらかを見極めるのが非常に重要だ。(「めちゃくちゃ働くのにあんまり稼げない」という仕事は滅びればいいと思う)

 生々しい話だが、ここが自分とフィットしないとなかなか辛そうだな~と思うことが多い。オタクを続けるにはなんだかんだで金が必要なので稼げるに越したことはないと思うのだが、自分がやりたい以上の労働を求められたり能力や適性に合わない仕事を振られたりして心や身体を壊したり(結構見かける)、逆に収入を理由にオタク活動をセーブしなくちゃならなくなってストレス溜めたりするのは辛すぎるので、自分の内なる声および冷静に見たときの能力や適性と向き合ってベストな落としどころを探ることが必要だと思う。

 おすすめしたいのが「どのくらいの貯金があれば老後困らずに暮らせるか」というのを算出して、「今から○年で○万円貯めればOK」という基準を作ること。そうすると月々の収入がいくらくらいあれば無理せずしたい生活ができるとか、オタク活動にどのくらい遣っても大丈夫そうかとかがなんとなく見えるので、会社選びの基準にもなるし何より気持ちがずいぶん楽になる。「(今月は贔屓に○万円遣ったけど)貯金してるから大丈夫」は最強の効き目を持つおまじないである。ただし計算時には自分に対する過剰な期待とか見栄とか楽観的予測とかは排除しないといけないので、冷静かつ慎重に。

 

3. 社員の性質

 「他人のことにあまり興味の無い人が多い職場」は居心地がいい。職場に家族的な人間関係を求めたい人にとってはつらいかもしれないが、わたしはあまりそのへんを求めないのと、いい加減「同じ公演何十回も観るの!?なんで!?」に対していちいち説明をするのに飽きてきたので、「公演が始まるので忙しい」「へーがんばって」で終われる今の職場は至って快適である。

 人間関係の濃さ・重さは部署にもよるので入社前に探るのは結構難しいかもしれないが、OB訪問とかでなんとなく「この会社は人間関係が濃そうだな…」と思ったら警戒してもいいと思う。わたしの感覚ではチーム仕事が多い会社・部署は当たり前ながら人間関係が濃い傾向にある気がします。別に人間関係が濃くても(性格や頭が)いい人たちばかりなら大して問題ではないが、体育会系オラオラみたいなのに巻き込まれると大抵の文化系オタクは死ぬので気を付けよう。研10くらいになると嫌な絡みには露骨に嫌な顔をすることで黙らせるという力技も効くが、若いうちはそういうのもなかなか難しかったりもする。

 

まとめ

 もうそんなに書くこともないのだが、ちょっと生々しい話をしすぎてドキドキしてきた。まとめると裁量労働で個人商店的な仕事かつドライな職場は特にヅカヲタにお勧め」ということなのだが、人それぞれに嗜好も適性も能力も違うし趣味との関わり方も違うので、何よりも大事なのは自分の内なる声に耳を傾けつつ作りたい環境を分析することだと思う。

 そしてもう一つ、「好きなものはわりと変わる」ということも最後に記しておきたい。入社時はゴリゴリの二次元オタクだったわたしが、気づけばすっかりヅカヲタである。入社時に最高だと思っていた職場が一転ものすごく身動きの取れない場所になってしまう場合もあり得るし、その逆もまた然りというわけだ。そのときどき、自分の気持ちに応じて環境を変える覚悟とそれを実行できるだけの実力みたいなものも大事なんじゃないかなと思ったりしている。転職したことのないわたしが言ってもあんまり説得力ないけど。

 結局参考になるんだかならないんだか良く分からない感じになってしまったが、この話はこれにておしまい。