踊りませんか。

きれいなもの至上主義

月組公演『グレート・ギャツビー』感想②

というわけで続きです。

第8場・アイスキャッスル

 あんなに可愛かった中尉さんがすっかり "ワル" になってご登場。コートを肩に羽織ったスリーピースのスーツはテッパンコーデですが、あれコートどうやって止まってるんだろう。物理的にどう考えても落ちる動きをしてたので普通にかけてるだけではないのは確かですが、脱いだあと特に留めてた形跡が見られないのが不思議です。階段を降りてきてカードでイカサマするスレイグルを見つけ、帽子を投げる。投擲がめちゃくちゃ上手くないですか?月城さんに関してはあまり小道具扱いが上手い印象がないのですが(別に下手でもないけど、素っ気ない扱いをする)、帽子投げるのはめちゃくちゃ上手いな!と毎回感心していました。

 カードのイカサマをしようとするスレイグルをハンドパワーで威圧し、ギャツビーはカウンターの上に。カウンターに土足で上がるなんて……なんてワルなんだ……。というのは冗談にしてもさっきの中尉さんがこんなに変わってしまって切ないやら沸くやら。とはいえ内側にあるものは全然変わってなさそうですが(それはそれで怖い)。『アウトロー・ブルース』は下で踊ってる人たちの振りがカッコよくて好きでした。冒頭でビロクシーが腕ぶんぶん振り回す振り(伝われ……)がキレキレですごくカッコよかったし、ゆーゆ(結愛かれんさん)のヴィッキーとは全然違う色香漂うダンスが最高。かわいくてキュートであざといヴィッキーもいいけど、わたしはずっと『赤と黒』のフェルバック元帥夫人を引きずっているので大人っぽいゆーゆが大好きです。あとシガレットガールたちが可愛すぎるじゃないですか。オープニングメンバー感漂う最上級生みうみん、品出しなどの仕事もきっちりやるほたるちゃん、上昇志向が強くてなんか揉め事起こして辞めそうないちのりん(一乃凛さん)……。いちのりんが客の男にちょっかい出そうとして連れの女性にバレてるとこをある日の回で目撃してしまい、それ以来彼女はパトロンを探しにアイスキャッスルでバイトしてるということにわたしの中で決まりました。

 アイスキャッスルにやってきたニックはなんだか立ってるだけで浮いていて居心地悪そうで可愛い。白めのベージュスーツって普通に見たら結構派手な感じだと思うんですが、いい感じに落ち着いている&ニックの「白さ」(悪いことに手を染めていないという意味で)が浮き出るようでいいなと思いました。育ちのよさは残しつつ派手さのない着こなしが上手い。可愛い中尉さんからやさぐれてしまったギャツビーがスタイリッシュなブルーのスーツなので、その対比もいいなと思いました。そのニックに話しかけるギャツビー、二人が直接会話するのを見るのは第2場の突堤以来のはずなのに距離が縮まっているのにあんまり違和感がないんですよね。回想を挟んだ結果ギャツビーの内面が知れたというのもあるんだと思いますが、多分距離の取り方が巧みなんだろうな。ティーカップウイスキーを飲むことに驚いたりマイヤーを「歯医者なのかい?彼!」と言ってみたり、色々とピュアというか純朴というか善良というか、なニックにわれわれ観客だけでなくギャツビーも好感を抱いていそうなところも表情作りが上手いな~と思いました。ニックが「え!?」みたいな反応を見せるたびにちょっと面白そうに笑うんですよね。

 ニックと言えば「彼は警察に知り合いが多いんです」のくだり、本公演では「警視総監か~(笑)」という反応で清濁併せ呑むおおらかさみたいな方が立っている言い方だったのに対し、新人公演のるおりあちゃん(瑠皇りあさん)は「警視総監か……(やや引き)」という感じで純朴さを立たせているのがオリジナリティあっていいなと思いました。本公演に比べるとすっとぼけたところが少なくて、貴族とは行かないまでも中流上層のいいとこのお坊ちゃんという感じが強くてよかったです。

 そしてトムとの邂逅ですよ……突然中の人の話で恐縮ですがちなつさんに塩対応されている月城さんを見ると悲しくなってしまうというのがよく分かりました。役なのは分かってるんですけど……。ギャツビーも露骨に余裕がなくて表情が硬すぎてヤバい。トムはトムで明らかに自分と違う匂いを瞬時に嗅ぎ取っているのか、ニックと接するときの明るさが全然見えない。トムって自分にとっての内と外をめちゃくちゃ区分けしてる人なんだろうなというのがすごくよく分かるくだりだなと思いました。2幕冒頭のヴィッキーとのくだりでも触れますが、自分にとって "外" の人間だと判断した瞬間まとう空気が全然変わってしまう。身内を守ろうとするところなど家父長としての振る舞いは完璧なんだよな~、なんというかトム自身の人格がダメなやつというより社会制度のダメさを反映した嫌さがあるというか……。

第9場・ニックの家の前~ギャツビーの家の中(時は戻らない)

 正直初めてあのどピンクのスーツが視界に入ったとき吹き出してしまいました。浮かれすぎだろ。気合の一着があのピンクだと思うとかわいそうやらいとおしいやら……5年間想い続けた恋人と再会するにあたってあのピンクを選んでしまうあたり気合の空回りがすごいとか、やっぱり本来のセンスはあんまり洗練されてないんだな……とか色々なことが瞬時によぎりました。突堤で着てた白スーツに今すぐ着替えてきてくれ。花道から銀橋に踏み出す前に手にした花束に視線を落として「……よし……」みたいな顔するところも可愛いんだか気持ち悪いんだか……心がふたつある~(ちいかわ)。

 ギャツビーの隣だということを知った状態でニックのところに訪ねてきたデイジーがギャツビーと "偶然" 会ってしまう可能性について考えていたかどうかは分かりませんが、銀橋の向こう側からやってくるピンク色の人を見た瞬間から夢の中にいるような表情になっていたのでなんかお似合いだよ……と思いました。ギャツビーがヤバいのは確かだけど、デイジーもデイジーで大概である。そしてこんな状態で誘われてオッケーするニックのおおらかさよ。わたしだったら固辞します。もしかしてデイジーの身が危ないかもと思って着いてきてくれたのかな?

 ギャツビー邸に入り、デイジーに諸々のストーカー的行為がバレますが問題ありませんでした。「ジェイ、あなた……」までちょっと不安げな顔してたけど続く言葉が「わたしが見えるところに家を建てたのね…♡」だったので、よかったね。その後「シャツさ!」が来るわけですが、毎回ちょっと笑ってしまいました。なんか満を持してシャツを投げ出すから……。当時下着扱いだったシャツにすごく金をかける=豊かさを示す、みたいな感じなんだと思うんですが結構唐突に投げ始めるのでびっくりします。夢の中モードに入ってしまっているデイジーはともかく、ニックもわりと乗っかってくれるので本当に優しいやつだ。

 その後銀橋に出てきての「できる。絶対できる!」のくだりは仕事でしんど~となったときに自分に言い聞かせるのに非常に便利でした。すごく力強く「絶対できる!!」の日もあれば思考より先に「できる」が口から出てしまったような言い方の日もあり、ギャツビーという人は一見無理そうな壁に対しても自分にこう言い聞かせてここまでやってきたんだなと思えて好きな台詞です。まあ絶対そっちに行っちゃだめなのにそんなん言われてもな……という感じではありますが、デイジーは案の定結構あっさり陥落していました。現実と夢の狭間でぐらぐらしていた様子はありましたが、「過去を取り戻すことができるかどうか」の話はするが結婚したことを「取り返しのつかないこと」と表現しているあたり気持ちは完全にギャツビーにある。

 どうでもいいけど「バンガローみたいだろう」が韻を踏んでおり、ダメ押しで「いいよ、邪魔だろう」と来るので観劇中結構面白くなっちゃってました。集中したいのに耳と頭が勝手にラップを……

第10場・トムとマートルの電話

 苛立ちをマートルがストレートに表現するのに対しトムが細かくイラついているのがいいな~と思いました。電話越しの声に対して視線がイライラと空中を行ったり来たりしたり眉を顰めてみたりため息をついてみたりと忙しい。「どうせあんたにとってはあたしなんか人間のクズよね!」と言うけど、多分人間として認識してるかどうか自体微妙だと思うな……。女体としか思ってないんじゃないでしょうかね。

第11場・ギャツビー邸の前庭

 ここが庭だって千穐楽間近になって初めて気が付いたんですよね……。なんかダンスホールとかかと思ってました。この場面のハイライトといえばブエノスアイレス出身だという理由でなぜか歌を要求され、「いいんですか(笑)」と嬉しそうに応じるラウルですね。2008年バージョンではちゃんとした歌手をアルゼンチンから呼んでいたらしいんですが、なんで今回はラウルに頼むんだよ。いやラウル歌上手かったしソロ・メモーリアスもめちゃくちゃいい曲でしたが(「この恋を思い出の岸辺に / 流し去ることなどできはしない / 僕たちには」とかの歌詞がとても詩的でよかったです。ロマンスを歌わせたらイケコはパワーを発揮する……)運転手に頼むことか?このくだりのおかげでなんかラウル=何かにつけて歌いたがる人、みたいなイメージがついてしまい、ちょっと面白くなってしまいました。

 そんなラウルの歌をバックに踊るタンゴを通じてデイジーがどんどん少女時代の表情に戻っていくのがすごくよかったです。大人になってからのデイジーはどこか感情を封じ込めたような表情をずっとしていたのに、踊りながら目に生気が戻ってきてルイヴィルにいたころの「世界はわたしの思うがまま!」みたいな感じが垣間見えるのが巧みでした。その後トムにバレて「やべっ!」って感じで現実にいったん引き戻されてしまうわけですが……。トムがデイジーを詰問するくだり、一瞬なんですけどめちゃくちゃリアルで怖いんですよね。わたしの父はわりと典型的な家父長おじさんなのですが、詰め方がそっくりで反射的に怯えていました。お前の生殺与奪は俺が握っているんだということを分からせようとしてくる感じの詰め方というか……。普段は("内" の人間に対しては)わりと優しい方なところも似てる。

 その後マイヤーさんに「処置なしだ」と言われて無職になってしまうギャツビーですが、なんかそれでも「勝った!」みたいな顔してるところが怖い。「僕は生まれ変われるだろうか / 君も生まれ変われるだろうか」って勝手に他人を巻き込んで生まれ変わらそうとするんじゃないよ。この(タカラヅカ版の)デイジーはその気がありそうだからいいものの、原作ではそれで辛い感じになっちゃったし。そんな怖い『朝日の昇る前に』リプライズですが、それでもやっぱりいい曲なんだよな~!楽曲としての力が強い。力が強いからこそ怖い。わたしがマイヤーさんだったらギャツビーの始めようとするビジネスは邪魔しにかかると思うので(だってどうせ合法でも縄張りを食い合うようなビジネス始める気でしょ?)、うまくいくはずがないと思うのですが……でもギャツビーからしてみたらデイジーと再会できたのだから後はなんとかする、なんとかしてみせる、できる、絶対できる!!!って感じなんでしょうね。この不屈の精神はちょっとだけ見習いたいところです。あとマイヤーさんも「元気でな」で許してくれるので(指とか詰めなくて大丈夫そ?)意外と妨害もしてこないのかもしれない。平和~

キリがいいのでいったんここで区切ります。第2幕に続く!