踊りませんか。

きれいなもの至上主義

月組公演『グレート・ギャツビー』感想③

 本作は一本もののわりにあっという間に終わってしまう印象なのですが、第一幕で結構話が進むんですよね。第二幕でやってることってよく考えたらゴルフコンペしてマートル轢いてギャツビーが撃たれて完、なので意外と情報量が多くないからすぐ終わるように思っているのかもしれない。集中力ってどうしても前半に偏るので、情報量配分が上手いな~と思います。第二幕はショー的な場面や大ナンバーが中心で楽しく観ていられるし、わりとぼんやりしていても話に置いていかれることがない。集中力切れないに越したことはないですが、日によって体調も違うのでなんか集中できないな~という日にも無理なく楽しめてありがたかったです。

第1場・トムとニックの電話~ジーグフェルド・フォリーズ

 トム、当日いきなり誘ってくるのどうにかした方がいいよ!!せめて前日に……。土曜のマチネだから勤め人の君にもとか言うとるが、当時って休み日曜だけじゃなかったっけ?サタデーナイトフィーバーが花金ではじけちゃった的な話だったと聞いてなんとなくずっとそう思っていたんですが違うのかな、いずれにせよ休みを把握してない感じとか他人に予定があることを想定すらしていなさそうな感じとか、かなりアメリカの貴族感ありますね(偏見)

 ジーグフェルト・フォリーズのショーはまたあみちゃんが大活躍で……歌うまっ!白燕尾でSUPER VOYAGERを思い出し、なんだか胸が熱くなりました。あみちゃんはわたしが実際に舞台姿をちゃんと見たことがある雪組生ラスト世代なので(NW雪で最下級生だった)、なんだか思い入れが強くなってしまいます。というかずっとドイツ語読みで「ジークフェルト・フォリーズ」だと思ってたんですがジーグフェルドなんだな。

 あとハイライトとしてはやっぱり「個人的なモーション」ですね。モーションて単語久しぶりに聞きました。東京公演までヴィッキーが個人的なモーションをしているのに気づいておらず、東京で銀橋にて分かりやすくやってもらって初めて気が付きました。あれはまあ確かに個人的なモーションだ。これから「ウィンクもらった気がするけどそのへんの全員に対してだと思うし……」と言っている人を見かけたら「いやあれは個人的なモーションだった」と言う係をやりたいと思います。

第2場・ヴィッキーの楽屋

 つらっ!!!ヴィッキーの人生が辛すぎて……。スレイグルとの関係も別に本意じゃなかろうに、(別にスレイグルもヴィッキーを愛してるとかそういうことじゃないだろうし)こうやって夢を叶える道は断たれ気持ちのいい金じゃない小銭を稼がされる日々が続くのかと思うともうしんどすぎる……。

 ステージドア・ジョニーと揶揄われたのに対して「俺は違うな」で何をするのかと思ったらジュエリーを出してくるあたり、なんかそうじゃねえんだわ!みたいな感じのすごいトム。なんかこう……ステージドア・ジョニーってプレゼントするものの金額で決まるんか……?結構「金持ち=素晴らしい!」みたいな価値観がちょこちょこ垣間見えるんですがこれが素なのか狙ってやってるのかが気になるところです。結局金だけがあっても階級を移動したことにはならないんじゃないか?とか、資本主義とは……みたいなところに突っ込んでいく話だと思うので、公演を通じて深掘りはできないにせよ問題提起みたいなものがしたいのかどうなのか。

第3場・ギャツビー邸内

 新曲の『入り江がひとつだけ』、本当に美しい曲で大好きです。「束の間の愛」というのが二人の現状にぴったりだし、夢の中にいるような浮遊感のあるピアノの音色が甘くて。あと月城さんとうみちゃんのお声がすごく合うな~と改めて思いました。溶けるようなハーモニーがすごく素敵でした。

 デイジーのネックレスを留めてあげたり上着を着せかけてあげたりとひたすらギャツビーが甲斐甲斐しいところがよかったです。それに対してデイジーが歌い終わりにギャツビーのネクタイをそっと触るのもすごくいい。なんか事後の甘い空気の表現としてすごく上品かつときめきがあって、イケコはときどきこういうすっっごく素敵な演出をつけてくるので油断ができないんだよな~。

第4場・ニックの家の近所(紗前)

 恋のホールインワンて何!?連れてった友人がみんな恋のホールインワンの話するのでたぶん初見の人でも非常に印象に残る場面というかナンバーなんだと思います。わたしも可愛くて好きです。ニックというかおださんのスイングが下手だけど上手。

第5場・アイス・キャッスル

 ミッチェル、冒頭でシガレットガールズに囲まれてるのが羨ましすぎる。酒をセルフでがっつり注ごうとしてみうみんに怒られてて羨ましいし、写真撮ってあげるよ~みたいな感じでほたるちゃんとたぶんゆららちゃん(朝香ゆららさん)にカメラを向けてポーズを取ってもらってるところも羨ましい。

↑がわたしが公演通じて最も心底思ったことかもしれないですね……。

 ミッチェルとギャツビーの会話も、外面と内面のちょうど狭間くらいの話し方でいいな~と思いました。半分くらい独り言なんですよね、ギャツビーの。人がそこにいることは理解しているけど、その人を壁にしてぽつぽつ内心をこぼしているような感じ。

第6場・ウィルソンのスタンド内部

 ウィルソン、意外と出ている場面は少ないんだけどなんとなくずっといるような印象があるのは出るたびにすごく怖いからなんでしょうね。階段で揉めるのやめてほしい…たぶん風共のトラウマです。その後車を乗り換えるくだりはデイジーがめちゃくちゃトムに喧嘩売ってて好きです。もう隠す気全然ない。

第7場・ゴルフ場

 トムがにこにこ踊っててちょっと面白い。脚をぐるんと回す振りのときに「脚伸びた!?」となるのが楽しいです。ナンバー終わってギャツビーとデイジーがお散歩しながら出てくるんですが、ついつい「ゴルフせえ!」と思ってしまいました。一体どういうタイミングなのかはよく分かりませんが(コンペ開始前に時間が戻った感じかな)、ルイヴィルの森で出会った二人が5年後ゴルフ場とはいえまた森の中で愛を語っているのがなんだか感慨深いですね。コンペでギャツビーとトムが戦う間、トムの打球では「…………」て感じの顔してるデイジーがギャツビーの打球では「ジェイ♡ナイスショット♡」みたいな表情なのがすごく露骨で好きでした。

 トムがギャツビーの経歴を暴露するあたりは結構つらくて見ていられないんですが、わたしより先にデイジーが音を上げる。こんなつらそうな状態に追い込んだうえで「無事にな」のくだりがあるので、後ろにいる友人たち(おもにぎりぎり(朝霧真さん)あたり)もちょっとトムに引いてるふうなんですよね。そんで「戻ってくるさ!」の負け惜しみ感よ。そこで追えないあたりがトムの弱いところというか、追えるところがギャツビーの強さというか。目標・欲しいもののためならなりふりかまわず動くことができるのは成り上がった人特有の強さだなと思います。

第8場・ウィルソンのスタンド前

 キャサリンの「姉は!……貞淑な人妻でした。兄さんだけを、愛して……」がすごくいいなと思いました。少女が一つ現実を突きつけられてしまった感じ。グレート・ギャツビーはデイジーが少女時代を終わらせる話みたいだなーと思うときがあるのですが、キャサリンの少女時代もこれで一つ終わってしまったんだなと思う。

 ウィルソンの「カリフォルニアに行くはずだったんだ。二人きりで……」がめちゃくちゃ怖くて、マートルは非常に嫌がってたのが分かっているはずなのに「二人きりで」とか言っちゃうのはどういう神経なんだよ。話聞いてるようで聞いてないというか、歌劇でるうさんが「愛情というより執着」とおっしゃってましたが本当にそうだなと思いました。マートルがどう思っていようがカリフォルニアに行きさえすればなんとかなると思ってたのかこの人!!となる。マートルは誰にも顧みてもらえなくてかわいそうだな……と感じました。フラッパーの哀れさはいい男がいないとか金がないとかそんなところじゃなくて誰にも顧みてもらえないところだと思う。デイジーも別に話を聞いてもらえてるかというとどうかなという感じではありますが、少なくとも身を案じてはもらえているし、ルイヴィルでの様子から察するにギャツビーはわりとデイジーの話を聞くタイプの人だったっぽいし。劇中ではあんまりデイジーと意見が分かれるところがないし基本ずっといちゃついてるので(「絶対できる!!」のくだりは結局デイジーも本気で嫌がっているわけではないし)はっきりとそれが描かれているわけではありませんが、二人の雰囲気とかあの甲斐甲斐しさ、あとトムとの対比という視点から見てもタカラヅカ版のギャツビーはデイジーと対話が成立していそうな感じがある。原作のギャツビーはマジでデイジーの話少しも聞いてないので、ここが一番違うところかもしれないと思いました。

第9場・デイジーの家の前

 この場面、ギャツビーが初めてまともな人に見えて好きです。子どもをダシに説得しようとするのは感想①で触れた通りいかがなものかと思ってますが、罪を丸被りしようとしているということの前になんとなく霞んでしまう。罪を被ってもらうことでデイジーは救われるのか、なんなら地獄を長引かせているだけなんじゃないかとも思いますが、かといってデイジーが罪を認めることに耐えられるかちょっと疑問ではあり……でも最悪ブキャナン家の力でもみ消してもらえるんじゃないですかね?とはいえギャツビーがその線を選ぶわけがなく、自分にできることの最大値として「罪を被る」という行動をとるのはまあ自然かもな……。その行為は独りよがりなものなんじゃないかと思わないでもないですが、結局月城さんの声と表情が非常に優しくてごまかされちゃうんですよね!!シンプルな話世界で一番好きな顔がめちゃくちゃ優しい表情で「ここから先は一人で行けるね」とか言ってるので「なんたる献身!!!!」てなっちゃうわけです。好きという気持ちは本当にいろんなものを鈍らせますね。

 デイジーに「でもあなたが好きよ」と言われた瞬間の「成仏……」って感じがすごい。ギャツビーが求めていた瞬間が訪れたんだなあと思いました。デイジーとずっと暮らすとかそういうことより、彼女の心がずっと自分にあることを確信できる瞬間を彼は求めていたんだなと。ここでだいぶ報われちゃったので、その後銃を向けられたときに死ぬ覚悟があっさり決まってしまったみたいなところがあるんじゃないかなあと思っています。

 そしてニックと再会。ここでもまた「君はあいつらよりよっぽど価値のある人間だ」と言われて報われてしまう。ニックのことは本当に友人として好きだったんだろうなと思うので、そんな人に認めてもらえて嬉しかったんだろうなと思います。結局お金を稼ぐとかセレブと繋がるとかそういうことよりも「認められたい人に認められる」というのが一番嬉しいのかなと。もちろん努力で勝ち取ってきたものがあるという前提あってこその喜びだとは思いますが、ニックのそれで最後のピースがハマったのかな~と思いながら見ていました。

第10場・神の眼

 クライマックスの大ナンバー。神の眼を欺いて愛する人を守ろうとするギャツビー、神は真実を知っている、それを受けて俺が裁くと歌うウィルソン、その神ってどの神のことを想定しているんだろうな~と思ったりしました。多分キリスト教の神なんだろうけど、ギャツビーがキリスト教の神に祈るというのもなんだかな~という感じというか、キリスト教的家族観と家父長制や階級社会は結構密接にくっついているので、お前はそれをひっくり返しにかかっているのではないのかと思わないでもない。信仰とそれはまた別物という場合が多いのだとは思いますが、キリスト教徒の人はそのあたりどうとらえているのか気になるところです。キリスト教といえば原作ではトムが「俺は妻(デイジー)と離婚したいが彼女はカトリックなので離婚できない」とマートルに嘘をついていることに触れており、それについても思い出しました。結局神も何もあったもんじゃないよという結末ではあるのですが……。ウィルソンは自分の行いを神を持ち出して正当化してるけど、それ違う人だから……!神の眼よりギャツビーの愛の方が強かったとも言えますが、それはそれで神何してんの!という感じである。

第11場・突堤

 ギャツビーが撃たれたとき『朝日の昇る前に』が流れるのが「終幕!」って感じで好きです。夢の終わりを思いますが、でもまあ報われてるからな……。わたしはなんとなくこれはハッピーエンドでは?と思っています。デイジーへの愛を完成させて文字通り永遠の恋人になってしまうわけで、あまりに突然の幕切れではありますが、あの生き方で長生きできる感じもないし……どうしても手に入れたかったものを手に入れて死ねるというのはある意味幸せなのでは?と思います。あと倒れながら「デイジー愛してる」って口の中でつぶやくのはさすがに怖い。地縛霊待ったなし感がある。デイジーの歌っていた「瀕死の白鳥は / 最後に鳴くという / 本当に好きな人の名を」を拾っているんだと思いますが、お前がデイジーのことが好きなのは全員知ってる……!!

第12場・ニックの部屋~街路

 最後の最後に「愛ってゴルフボールより打つのが難しいのね」と上手いこと言って去るジョーダンのせいで連れて行った友人の最初の感想が大半これになってしまうんですよ。誰が上手いこと言えと……というか上手いのか?

第13場・墓地

 デイジーがやってきて花を手向けるのはタカラヅカ版ならではだなー!と思いました。ニック以外誰もギャツビーの葬儀を見届けない、というのが原作だとキモっぽい感じでしたが、やっぱりギャツビーとデイジーラブロマンスにしようとするとデイジーにとってずっと特別な人でなくちゃならないんだなと。薄情じゃないからこそデイジーの今後は結構しんどいのではと思いますが……ジェイが空から見守ってくれてると思って頑張ってほしい。多分ほんとに見てるし……。

 じゅんこさん演じるお父さんが本当に泣かせる。ピンポイントの出番で大きく観客の心を動かすのはまさに専科さん!という感じです。素朴で学も教養も金もなさそうだしギャツビーは「こうはなりたくない」と思ったのだろうけど、お父さんのこと自体は切り捨てたかったわけではないんだろうなと自然に思える感じが泣ける。

第14場・突堤

 観ている間は「は~~っ、すご……大作でした……」とただ圧倒されていますが、改めて考えるとこの場面普通に地縛霊っぽいな……。死んだ後もずっとイーストエッグというかデイジーを見つめている。愛を取り戻すという目的は達されたので悪いことするタイプの霊ではないと思いますが、近隣のうわさにはなっていそう。ギャツビーの霊が出るらしいよ、とかって。

第15場・フィナーレ

歌唱指導

 ちなつさんのお衣装が素敵!青をベースにパールがたくさんついてて袖口がヒラッとしていて、ちなつさんのスタイリッシュなダンスにすごく合っててよかったです。曲はそれなんだ!?と思いましたが、歌唱指導の曲選びってわりと不思議なこと多いですよね。

ロケット

 真ん中でめちゃくちゃかわい子ぶってるだいあくん(月乃だい亜さん)がかわいい。が、その直後可愛いのプロですみたいな3人(まのんちゃん、ほたるちゃん、いちのりん)が出てくるので「あっ可愛いのプロ!すごい!」となります。基本的にいちのりんばかり見ているのですが、足上げのあとのポーズでウィンク入れててすごくよかったです。

月城さん+娘役群舞

 娘役さんを引き連れているのに健全な雰囲気しかないところが月城さんらしくてすごく好き。娘役さんが周りにいっぱいいる~!わ~い!みたいな顔してから「じゃあ行きましょー!」みたいに手をポンと握って腕を広げる振りが特に好きでした。でも月城さんがいると全然娘役さんのこと見られないので(目が一対しかないもので……)たまに別々に出てきてくれてもいいんですよ!

男役群舞

 ジャケット振り回すところがカッコいい!(感想②でも書きましたが)月城さんの小道具扱いは素っ気ない印象があったのですが、今回なんだか色気が出ている気がしました。あと前回(FS)ジャケットを振り回していたときは「そこを持つ!?」みたいなところを持って振り回されていたのが今回ちゃんと襟首を持って振り回されていたので進化を感じました。月城さん以外の方のことは月城さんが捌けられた後しかちゃんと見られていないのですが、まゆぽんがいつもの感じで群舞にいらして嬉しかったです。

デュエットダンス

 これまであまり見たことのなかった深い赤のお衣装が素敵でした。うみちゃんの髪型がすごく似合ってて素敵だし、階段の上から本舞台で踊る月城さんを見守っているところがよかったです。男役と娘役逆のパターンはわりと見る気がするんですけど、こっちのパターンは珍しい気がする。うみちゃんが母のような顔になっていてちょっと面白い。普通にデュエダンだと思って見ていると素敵なお衣装!と思うのですが、ギャツビーとデイジーがもう一回出会って……というシチュエーションだと思うと「またそんな浮かれたキラキラお衣装着て!(しかも今度はデイジーとお揃い)」と思ってしまうので、設定って影響力が大きいんだな。

パレード

 エトワールのいちのりん、本当に歌が上手くてびっくりしました。表情管理もすごくてできる女すぎる。階段降りてきてお辞儀したあとちょっと首をかしげるところがキュート!月城さんの大羽根についてる飾りがどことなくファンネルみたいで、うみちゃんの方にもあれがついてるため、ひし形の部分を飛ばして攻撃してくる敵みたいだな……と思っていました。

 

やっぱり感想まとめると全部で2万字くらいになるということがよく分かりました。この話は以上です!